まさしく言いたい放題、前後左右、罵倒のかぎりを尽くし、さすがの包知事でさえ眉をひそめた時だった。
「おまえはおとなしく刑に服しておればよいのだ。何をつべこべと申しておる。おかみにむかって抗弁するとは不届きな。これ以上申したてると、数を増やしていただくがいいのか。そもそもおまえのような不埒者《ふらちもの》は……」
抗弁の声をかき消すような大声で、罵《ののし》りはじめた者がいた。その罪人の隣に立っていた下役人である
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本来、私的な使用人であるからそういう場には幕僚は顔を出さないものだが、たまたま、奥から書類を届けにきた懐徳はその場面を目撃することになった。
包知事という人は、役人がその権力をかさにきて威張り散らすのを嫌う人だということは、懐徳も十二分に承知していた。あ、これはまずいな、と思う間もなく、
「その者をとりおさえなさい」
激した、というには間延びした声が飛んだ
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「は?」
「取り押さえて、棒叩きの刑に処しなさい。回数は十回。そのかわり、その罪人の刑は二十回に減じてよろしいです」
「ち、知事さま、それは……」
突然に刑を宣告された下役人も、周囲の人間も当然あわてた。
「それは無茶です。その者の罪は罪としても、きちんと審理しなければ……」
「いったん宣した刑を、いきなり減じるというのも……」
「法を司《つかさど》る者としては、厳正に手続きを行った上で……」
「手続きは無用でしょう」
「ですが……」
「それをいうなら、その者が今口走ったことはどうなります? 審理も手続きもなし、権限もないのに刑を増やそうとしたのですよ
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「それはそうですが……」
「役人が、その力をかさにきて脅すのはもっとも忌むべきことかと。とにかく、私のいうとおりにしていただきましょう」
言葉遣いは穏和だが、これは絶対に譲らないだろうと思わせる毅然としたものが声音の中にこもっていた。こんな声は、懐徳も初めて聞いたほどだ。
抗弁していた周囲の者も、これはだめだとあきらめた。もちろん、事の元凶の下役人も呆然とした表情を隠さない。本来の罪人にいたっては、何が起きているのかさえ把握してないようにきょろきょろと周囲を見回していた。